映画ネタバレと感想

映画【検察側の罪人】ネタバレ(あらすじ)と感想評価「最上(木村拓哉)の揺らぐ声を聴け」

(C)2018 TOHO/JStorm

「日本のいちばん長い日」や「クライマーズハイ」、「突入せよ!あさま山荘事件」など、男臭い作品を得意とする原田眞人監督が、特異な役者である木村拓哉、そして好対照な二宮和也という演技派をぶつけて社会の最も高潔な”正義”をつかさどる世界の中に生じた歪みを描いています。

ここでは、映画「検察側の罪人」のあらすじを「ネタバレなし」、「ネタバレあり(結末まで)」のパートに分けてご紹介します。

後半では、感想評価について書いていますので、そちらもぜひご覧ください。

【検察側の罪人】予備知識

「検察側の罪人」の予告動画

公開日(日本):2018年8月24日

監督: 原田眞人

キャスト
木村拓哉(最上毅)
二宮和也(沖野啓一郎)
吉高由里子(橘沙穂)
平岳大(丹野和樹)
大倉孝二(弓岡嗣郎)
八嶋智人(小田島誠司)
音尾琢真(千鳥)

酒向芳(松倉重生)

矢島健一(高島進)
芦名星(運び屋の女)
山崎紘菜(最上奈々子)
阿南健治(田名部刑事)
田中美央(小池孝昭)

長田侑子(久住由季)

松重豊(諏訪部利成)
山崎努(白川雄馬)

作品概要
エリート検事の最上は、かつて慈しんだ少女・由季が惨殺され、その犯人を裁くことができないままに時効を迎えてしまったという苦い経験がありました。

その彼の目の前に、再び最重要人物であった男・松倉が”容疑者”として現れるのです。

今度こそ松倉を法で裁きたい___その執念に突き動かされる最上は次第に壊れ、大切な”一線”を超えてしまうのです。

【映画名】あらすじ(ネタバレなし)

(C)2018 TOHO/JStorm

若手検察官・沖野(二宮和也)は、新人時代の教官でもあった最上(木村拓哉)のもとに配属されました。

冒頭、その研修の最後に最上が語る言葉を聴く沖野の姿が描かれており、二人の間には圧倒的な隔たり…それは時間・経験、そして資質という、埋めがたい何かを感じます。

しかし、最上が沖野に対して高圧的な態度をとるというわけでもなく、彼を部下としてさらりと迎え入れ、また、沖野もその胸を借りるかのように仕事を始めていくのです。

彼らのもとにある日舞い込んだのが、小さな町工場を営む老夫婦が惨殺された、という事件でした。

容疑者として浮上したのが、松倉(酒向芳)という男でした。

その名前を見て、最上は顔色を変えました。

松倉は、かつて最上らが関わった事件の容疑者であり、しかし追い詰めきれずに裁くことが叶わなかった、そんな人物だったのです。

殺人事件でまだ時効が撤廃されていなかった時代…法学部の学生だった最上らが可愛がっていた下宿屋の娘・由季が惨殺されたその事件は、最上の心の中の最大の棘だったのです。

松倉の出現で、沖野は最上の様子が変化していくことを感じました。

彼は事務官の橘(吉高由里子)とともに捜査の裏でその謎を探るようになっていくのです。

以下、結末までのネタバレになりますのでご注意ください。

【映画名】あらすじ(ネタバレ)

過去からの縁

最上には、表には見えない不思議な縁がありました。

事件の捜査対象であった、闇のブローカー・諏訪部(松重豊)___彼は裏社会のあらゆることに精通していましたが、最上とはたった一つの共通点があったのです。

彼の父親と、最上の祖父が太平洋戦争でインパール作戦に従軍した兵士であったこと。

最上の祖父はそれに関しても著書を残しており、諏訪部はそこにシンパシーを感じていたようで、そんな話を聞くためなら「諏訪部はいつでも(最上さんの)ポチ(犬)になります」と宣言していました。

妻と娘とはあまり良い関係とは言えず、部下にも本心を見せることをしない最上は、どういうわけか諏訪部には弱みをさらけ出し、心を開いていくのです。

超えてしまった『一線』

最上は、今回の老夫婦の殺害事件を通して、松倉を合法的に抹殺することを目的に動き始めたのですが、そこに一人の男の存在が浮上しました。

別件で逮捕された人物が、弓岡(大倉孝二)と言う男が酒を飲んだ時に「あの事件は俺がやった」と口を滑らせたことを証言していたのです。

彼がいる限り、自分の願いは叶わない___。

そう思った最上は諏訪部に依頼して拳銃を手に入れ、弓岡を連れ去り、とある森の中で自らの手で撃ち殺してしまうのです。

分かたれた”道”

(C)2018 TOHO/JStorm

その異変と暴走に気づいた沖野・橘らの介入を巧みにかわして証拠を消した最上でしたが、状況に不審の念を抱いた沖野らは、最上と袂を分かち、検察を辞めて弁護士として松倉の“今回の事件に関する無実”を証明していくことになります。

彼は松倉の国選弁護人の小田島弁護士(八嶋智人)に協力を申し出てその矛盾を突き崩し、“人権派”の大物として知られる白川弁護士らとともに松倉の無罪を勝ち取るのです。

零れ落ちるように最上の手をすり抜けて自由の身になった松倉は、しかし、由季を殺し、凌辱していたことを告白していました。

残念ながら、それが明らかになったとしても、もう時効の壁の向こう側のことで誰にも彼を裁くことが叶いません。

絶望した最上でしたが。

松倉は飛び出した夜の街で、諏訪部の配下の者たちによって巧みに事故死させられてしまうのです。

凶行の果てに

全てが終わった時。

沖野は最上を訪ね、彼の犯した罪の全てを悟ります。

敬愛していた最上の心の闇。

そして押しとどめることの出来なかったその凶行の結果に、沖野は心の底から振り絞るような叫びをあげるのでした。

【映画名】感想と評価

『正義の剣』を振るうはずだった最上の心は次第に壊れ、崩れていく___その様子を木村拓哉が見事に演じています。

彼が「何をやっても“キムタク”って言われる」と自ら発言することもありますが、それは少し違っていると感じることが多くて、彼は自分を役に近づけるのではなく、役を自らの中に取り込んで引き寄せてその人物を作っている、というように感じるのです。

地位も名誉もありながら、妻と娘とはうまく関係を結ぶことができずに冷え切っている、そんな最上の家庭。

そして最大の棘であった松倉を滅ぼすために全てを投げ出してしまった、その彼の悲しみと絶望が痛いほどに伝わってきました。

そんな彼は、しかし松倉以外の部分に関しては全くブレることがなく“社会正義”のために日々戦っているのです。

その様子が垣間見えるシーンがありました。

多くの検事らが上席の検事らに、まるで学生がレポートの裁可を仰ぐように列をなす場面で、松倉の事件の状況をかいつまんで語る最上の背後に若い女性検事が映り込みます。

彼女がとある大企業内のセクハラ・パワハラについて起訴を訴える声が最上らの会話に静かに被っていました。

「不起訴が妥当」とつっぱねられようとしていた彼女の背後をすり抜ける最上は、彼女の前のめりになった背中をパン!と叩いて「引くな!」とまるでカツを入れるように強い口調で言い残していくのです。

これが、本当だったら彼の全てだったはずなのに。

幼いころ可愛がっていた由季を無残な形で失ってしまった哀しみ、そして犯人だった松倉をきちんと裁くことができなかった後悔がまるで大きな魔物のように最上を食いつぶしてしまった、その乖離が良く解るシーンでした。

松倉を「モンスター」と評するセリフがありましたが。

彼に毒された最上もまた、同様の存在に堕ちていく、そのプロセスはぐさぐさと胸に刺さるのです。

もし諏訪部という存在がなかったら最上は弓岡を始末することはできずに、自らの手を汚すことはなかったかもしれません。

しかし諏訪部がいたから、由季の仇をとることができた…それも事実です。

そして松倉の“冤罪”を防いだ沖野の行いは正義のはずなのに、彼の胸に残ったのは虚無感のみだったのです。

彼らは、これからどうやって生きていくのか。

心象風景は、最上の祖父がしたためたインパールの地獄のような世界。

正義の剣を振るうことが必ずしも全ての人々の幸福につながるとは限らない___その「一線」を超えた先に何があるのか…その不確かさを表すように、木村拓哉の声は揺らぎ、観る者の心を揺さぶるのです。

まとめ

松倉を演じた酒向芳さんは、まさに怪優ともいうべき、鬼気迫る芝居を見せてくれています。

朝ドラの「まれ」、「ひよっこ」、「半分、青い。」などでは少しクセはあるけれど、そのあたりにいても不思議はない、そんなおじさんの風情を“オーラ”を消して演じていましたが。

この作中の松倉は負を超えて異次元の、まるで異形の生き物を作り出してそこに存在しているかのようです。

彼に対峙する最上や沖野が狂わされていくだけの“禍々しさ”を体現している様子はすさまじく、一度見たら忘れられない毒を残します。

また、諏訪部を演じた松重豊さんは、近年の作品で印象的な人の好さを封印し、これもまた現実味のない“怖さ”で物語を引っ張るのです。

木村拓哉さんは、その中に在って、ものすごいスター性を発揮しているわけではなく。

むしろ一歩引いて、狂っていく世界に翻弄される男を演じているのです。

揺さぶられ、壊れていくその心象風景に、土屋玲子さんの二胡の揺らぐ旋律が被さり、心が震えるような感覚をおぼえます。

土屋玲子さんは最上の妻を演じていますが、作中でも二胡を演奏しているシーンがあり、家族とは心が離れてしまっている最上の淡々とした哀しみをその音が表しているかのようにも思えました。

有象無象が絡み合い、どうしようもない哀しみに堕ちていく物語の中で、木村拓哉と言う人はその全体のバランスを緩めて引き締めて見事にラストシーンまでひっぱり、立ち尽くしている…そんな印象が残っています。

彼を“キムタク”と揶揄する人にこそ、じっくりと見てその静かな“凄み”を味わってもらいたい、そんな原田眞人監督の骨太な作品でした。